はじめに


指導教授は
にこやかな顔で
言いました。
自然科学のような
ふりをしてる詩を
学んでみてはどうかね?
そんなことが
できるんですか!?
指導教授は
私の手を握って
言いました。
社会人類学もしくは
文化人類学の世界に
きみを歓迎するよ。
カート・ヴォネガット

人類学者というのは、
作家、小説家、詩人に
なりそこねた人たち
なのです。
J・クリフォード
その他のジャンル
▼「文化人類学者になりそこねた人たち」
「文化人類学解放講座」より)
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d0016471_15467.jpg「ある学問がどんな学問なのかを
知りたければ、その学問を
研究している人びとが実際に
どんなことをしてるかを
まず見るべきである。」
(クリフォード・ギアツ)


前回は、文化人類学者クリフォード・ギアツの、このことばをうけ、それを「文化人類学がどんな学問なのかを知りたければ、文化人類学を研究している人びとが実際にどんなひとたちなのかをまず見るべきである」とよみかえて、文化人類学者たちの肖像写真とその著作(の表紙と題名だけ)を見てみるということをしました。

今回は、このギアツのことばをさらによみかえ、文化人類学がどんな学問かを知るための別の実験をしてみましょう。前回、見た文化人類学者たちは、生まれたときから文化人類学者だったわけはなく「文化人類学者になった人たち」です。なった人がいるところには「なりそこねた人たち」が必ずいます。そこで今度は、「なりそこねた人たち」の姿や生き方、またその作品をみることで、文化人類学がどんな学問なのかを考えてみたいと思います。

▼[教材] 文化人類学者になりそこねた人びと(jpg/264KB)*クリックすると拡大します。
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ミシェル・レリス(詩人)
カート・ヴォネガット(SF作家)
グレゴリー・ベイトソン(精神生態学者) 
ゾラ・ニール・ハーストン(小説家) 
マヤ・デーレン(映像作家、ダンサー)
ロバート・フラハティ (映画作家)
ジャン=リュック・ゴダール(映画作家) 
ウィリアム・バロウズ(小説家、芸術家) 
アスガー・ヨルン(画家、シチュアシオニスト) 
ソール・ベロー (小説家)
デイジー・ベイツ(福祉活動家) 
ジョン・ルイス (音楽家)
キャサリン・ダンハム(舞踏家) 
ジャン・ピエール・ゴラン(映画作家) 
ジョゼッペ・シノーポリ(指揮者) 
ハリー・スミス(映像作家、民族音楽研究家)
ゲーリー・スナイダー (環境活動家)
テオ・アンゲロプロス(映画作家) 
カルロス・カスタネダ(作家) 
ジョゼフ・コスース(現代美術家) 
ジェローム・ローゼンバーグ(詩人) 
ローター・バウムガルテン(現代美術家) 
トム・ハリソン(ジャーナリスト)
ディヴッド・トゥープ(現代音楽家) 
トリン・T・ミンハ(映画作家) 
ヴェルナー・ヘルツオーク(映画作家) 
サム・ライミ(映画作家) 
シャロン・ロックハート(現代美術家)
ブルース・ナウマン(現代美術家) 
クレメンティーヌ・デリス(現代美術家) 
ジョアン・ビンゲ(SF作家) 
スーザン・ヒラー(現代美術家) 
フレッド・ウィルソン(現代美術家) 
ルネ・グリーン(現代美術家) 
アミタフ・ゴーシュ(SF作家) 
ダン・グレアム(現代美術家) 
ミルナ・マック(人権活動家) 
メアリー・ケリー(現代美術家)
エド・ルッシュ(現代美術家) 
ジェイムズ・クリフォード(文芸批評家) 
土方久巧(彫刻家)
岡本太郎(芸術家) 
牛山純一(TVプロデューサー)
ザック・デ・ラ・ロッチャ (音楽家)
イルコモンズ(元・現代美術家)

「民族学とは、未開社会という特殊な対象によって定義される専門職ではなく、いわば、ひとつのものの考え方であり、自分の社会に対して距離をとるならば、私たちもまた自分の社会の民族学者になるのである」(モーリス・メルロ=ポンティ)



d0016471_18533654.jpg▼「文化人類学者になりそこねた人たち」
グレゴリー・ベイトソン(精神生態学者)/カート・ヴォネガット(SF作家)/岡本太郎(芸術家)/ジャン=リュック・ゴダール(映画作家)/ウィリアム・バロウズ(小説家、芸術家)/ゲーリー・スナイダー (環境活動家)/アーシュラ・K・ルグイン(SF作家)/ジョゼフ・コスース(現代美術家)/イルコモンズ(元・現代美術家)/ザック・デ・ラ・ロッチャ (音楽家)/フレッド・ウィルソン(現代美術家)/シャロン・ロックハート(現代美術家)/デヴィッド・ラン(劇作家)

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【事例】人類学者になりそこねた作家たちのプロフィール

d0016471_275626.jpg▼ウィリアム・S・バロウズ (作家・芸術家)
1936年、ハーバード大学で英文学、言語学、人類学を学んだ後、1938年、ハーバード大学大学院で人類学を専攻。1939年にはコロンビア大学でも人類学を学ぶ。第二次大戦終了後、メキシコに移住し、1950年から1951年までメキシコ・シティ大学で人類学を学ぶ。マヤ文明の考古学、ナヴァホ・インディアンの言語学、クロウ族、クワキウトル族の文化などを研究し、その成果は、カットアップ作品「ア・プーク・イズ・ヒア」などに結実する。

▼カート・ヴォネガット Jr.(SF作家)
1944年、シカゴ大学人類学部で文化人類学を専攻。当時の学部長はロバート・レッドフィールド。1947年に大学院に修士論文を提出するが、審査で不合格となる。論文のテーマは、世界の神話や文学のグラフ分析。その成果は、「猫のゆりかご」のボコノン教の創作や、「チャンピオンたちの朝食」などでの相対主義的視点などに結実する。

 「ひと月ほど前に、私の息子が「これまでの人生でいちばん幸せだった日はいつ?」と私にきいてきました。そこで私は天井を見あげながら、こう答えました。「これまででいちばん幸せを感じた日は一九四五年の十月、アメリカ陸軍を除隊してからまもなくのことで、その日、私はシカゴ大学の人類学部に入学を許可されたのだ。その時、心の中で叫んだものさ。「やっと入れたぞ!これからは人間のことを学ぶんだ!」とね」。それはともかくも、ある文化が他の文化よりもすぐれていると考えることは、私たちには許されなかった。それに人種のことをとやかく言うと、こっぴどく批判されたものだ。当時そこでは、人間個々人のあいだに(優劣の)差異というものは存在しないと教えていた。いまでもそう教えているかもしれない。もうひとつ人類学科で学んだのは、この世に、奇矯とか、性悪とか、低劣といわれる人間は、ひとりもいないということである。」(カート・ヴォネガット)

▼アーシュラ・クローバー・ルグイン(SF・ファンタジー作家)
1929年カリフォルニア州バークレー生まれ。父親は文化人類学者のアルフレッド・L・クローバー。母親は、北米最後のインディアン、イシの伝記を執筆した作家のシオドーラ・クローバー。文化人類学者の、(異)文化の多様性に対する視点や、他者に「教える」のではなく、他者から「学ぶ」態度、自文化への批判的精神は、「ロカノンの世界」の主人公、民族学者ロカノンや、「言の葉の樹」の主人公、観察者サティなどにみられる。

 「この惑星に居住する高度の知的生命体は少なくとも3種族いるが、どれもテクノロジーの水準が低いので、無視するか、奴隷にするか、破壊するか、彼らはしかるべき処置をとるだろう。攻撃的な人種にとっては、テクノロジーが至上のものだからである。そしてそこに全世界連盟自体の弱さがあるのだと、ロカノンは考えていた。テクノロジーだけが重要なのだ。前世紀にこの惑星に派遣された二つの使節団は、他の大陸を探索しないうちに、すべての知的生命体と接触しないうちに、この惑星の一種族が、先原子力工業技術の段階に達するように後押しをしたが、ロカノンは、それに待ったをかけ、この惑星のことを学ぶために民族学調査団を自らひきいてここにやってくることになったのだった。このようにして全世界連盟は、最強の敵を迎え撃つ準備をしていた。数百の世界が訓練され武装され、数千の世界が鋼鉄や車輪やトラクターや原子炉を使うように教えこまれつつあった。だがヒフファー(高度な知的生命体の研究者)であるロカノンの仕事は、教えることではなく学ぶことであり、多くの後進世界で暮してきた彼は、武器や機械がすべてであるという考え方に疑問を持っていた。ケンタウロス、地球、セチアンなどの攻撃的な道具をつくるヒューマノイド種によって支配されている全世界連盟は、知的生命体の技能や力や潜在能力を軽視し、あなりに狭い基準にもとずいて判断をくだしてきたのである。」アーシュラ・K・ルグイン「ロカノンの世界」(1966年)より

▼岡本太郎 (芸術家)
1938年、パリ大学ソルボンヌ校の民族学科に入学。詩人のミシェル・レリスらと共にマルセル・モースから民族学を学ぶ。後にその成果が「縄文文化論」や絵画作品に結実する。

▼ジャン=リュック・ゴダール (映画作家)
1949年、パリ大学ソルボンヌ校で人類学を専攻。人類博物館にあったアンリ・ラングロワのシネマテークに通いつめ、ロバート・フラハティの民族誌映画「ナヌーク」などの作品にふれる。ジョルジュ・デュメジルの神話学に啓発されるが、映画の批評と制作に専念するため大学を中退。その影響は映画「ウィークエンド」でのエドワード・タイラー「古代社会」の朗読などにもみられる。

▼ザック・デ・ラ・ロッチャ(ロック・ミュージシャン)
レイジ・アゲインスト・ザ・マシンのヴォーカル。政治色の強いチカーノ壁画家である父と、文化人類学の博士号を持つ反戦活動家である母の間に生まれる。

▼ジョゼフ・コスース (現代美術家)
1975年、NYのニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチで人類学と哲学を学んだ後、論文「人類学者としての芸術家」を発表。意味やルールなどの見えない文化を見えるものにするという点で、現代美術家の仕事と人類学者の仕事には、たがいに共通するところがあると論じる。
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by mal2000 | 2005-04-14 14:03
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